植物がどのようにして植物特有の「かたち」に育っていくのか、そして刻々と変化する「環境」にどう対応するのか、そのメカニズムに興味を持っています。そのために植物細胞がどのようにして分裂し、伸長し、特徴的な細胞へと分化して環境に適応するのか、それを明らかにするために細胞骨格、オルガネラ、代謝研究、クロマチンリモデリング、転写後制御、エピジェネティック制御、環境応答といった幅広い分野の融合を目指した新しい研究に取り組んでいます。

「植物における微小管ネットワーク」(細胞骨格・オルガネラ)
「表層微小管の新たな役割 ―オルガネラ集積領域-」(代謝研究)
「植物におけるRNA顆粒」(クロマチンリモデリング、転写後制御、エピジェネティック制御)
「ストレス顆粒(Stress granules・SG・翻訳抑制顆粒)」(環境応答)

植物における微小管ネットワーク

植物において微小管は表層微小管、分裂準備帯、紡錘体、フラグモプラストと呼ばれる微小管構造物へと構築され、間期には細胞伸長方向の制御、分裂期には染色体の分配・細胞質分裂・細胞分裂方向の制御などに関わっています。植物細胞は細胞壁に囲まれて動けないため、植物の形態形成は正確な分裂方向と伸長方向の制御が重要です。微小管は分裂方向と伸長方向の制御することで植物の形態形成に関わっています。

微小管構造物の構築・制御・機能発現には微小管の周りに結合している微小管付随タンパク質群(MAPs)が働いています。私達はこのMAPsの機能解析を通じて、植物における微小管ネットワークの機能や構築メカニズムを調べています。特に植物のMAPsを網羅的に同定するMAPsプロテオーム解析では、約8割の既知 MAPsがMAPs画分で検出され、さらに6familyもの新規MAPsを同定しました(Hamada et al. 2013 Plant Physiol)。

表層微小管の新たな役割 —オルガネラ集積領域-

MAPsプロテオーム解析では予想外のタンパク質も多く同定され、特にペルオキシソーム・ミトコンドリア・ゴルジ体などのオルガネラのタンパク質、mRNAやmiRNA を含むRNA顆粒のタンパク質が多量に含まれていました。これらのオルガネラやRNA顆粒を細胞内で観察すると、アクチン繊維依存的に細胞内で運ばれ、微小管周辺で係留されることを明らかにしています(Hamada et al. 2012 Plant Cell Physiol)。さらにオルガネラの中でも特に微小管は小胞体と密接に結合しており、表層微小管により小胞体ネットワークの細かさが決められていることが明らかになりました(Hamada et al. 2014 Plant Physiol)。すなわち表層微小管は細胞膜近傍で様々なオルガネラやRNA顆粒を係留し、「オルガネラ集積領域」と呼べる場所が形成されていると考えられます。現在、微小管が形成する「オルガネラ集積領域」について更なる研究を行っています。

植物におけるRNA顆粒

植物の微小管付随タンパク質群(MAPs)画分に含まれていた多くのRNA 結合タンパク質の一部は、細胞質中でRNA顆粒(RNA とタンパク質を含む膜で覆われていない細胞質顆粒)となって存在することが明らかになりました。RNA 顆粒は、核—細胞質間のRNA 輸送、翻訳抑制、RNAの分解、細胞間のRNA輸送などの場になっていると考えられます。私達はRNA顆粒のダイナミクスや役割を、最先端のイメージング解析や生化学解析、シーケンス解析により解き明かそうとしています。特に近年はMAPs画分から同定されたmicroRNA—AGO複合体に結合する新規タンパク質の機能解析を行っています。

ストレス顆粒(Stress granules・SG・翻訳抑制顆粒)

植物は環境変化などのストレスを受けると翻訳に関わる因子を多く含むストレス顆粒(Stress granules・SG)と呼ばれるRNA顆粒を形成します。私達の研究室では翻訳関連因子(翻訳開始因子・eIFsやpoly-A binding proteins・PABPs)やmRNA をラベルすることにより、植物細胞内でストレス顆粒を可視化することができています(図)

ストレス顆粒の機能ですが、動物では翻訳抑制が起きていると考えられています。おそらく植物でも同様の翻訳抑制が起きているのではないかと考えられますが、証明はされていません。さらにストレス顆粒が植物の発生や環境応答の過程において、どのような役割を持っているのかもほとんど分かっていません。そこで私達はストレス顆粒を常時形成している変異体や形成できない変異体を研究することで、これらの問いに答えようとしています。ストレス顆粒研究は植物では始まったばかりの未開拓分野なので、今後、新しい重要な発見が続々と見つかると期待されます。